名義預金と贈与の主張

 名義預金、特に家族名義預金が争われる場合、「贈与」の問題が絡んできます。

 家族名義預金の出捐者は被相続人であっても、相続開始前に贈与契約が成立していた場合には、相続税の課税要件を満たさないことになります。

 例えば、課税庁が相続財産と認定した名義預金がある場合、納税者から「それは相続開始前に既に贈与されていた」との主張がよく行われるからです。この場合、本当に贈与があったのか、成立していたかが争われています。贈与の成立には、必ずしも書面は必要ありません。

 したがって、贈与の成立については、書面の作成がない場合には、①「贈与者及び受贈者双方の合意(意思)があること、②履行されたこと(財産が交付されたこと)」等総合的に判断されることになります。

 したがって、次の点に留意しておく必要があります。

① 書面の作成

 贈与契約は、法律上は書面を作成しておかなくても、契約は有効に成立しますが、トラブルの元となることも多いので、できるだけ書面を作成しておくことがベターです。

 なお、書面を作成する場合には、次の点にご留意ください。

・書面の内容(登記等)は確実に履行されているか

・贈与の対象物件等が明確に記載されているか

・処分権の留保はないか

・書面の管理は贈与者・受贈者お互いに

・作成日現在の住所(別居であるにもかかわらず同住所になっている)に誤りはない      か(作成日が疑問)

・印鑑は別々のもの使用しているか

 など書面の真実性を立証できるようにしておくことが重要です。

② 贈与の意思

 贈与の意思が証明できるもの(メモ等)を、できるだけ残しておく必要があります。

・贈与の時期、動機等がわかるメモ

③ 支配の移転

 家族名義の預貯金が贈与であることを主張するためには、贈与者(被相続人)がその預貯金の所有権を自己の支配から名義人に移転していることが大前提です。

・通帳、印鑑等の管理・保管

・利息の受領

・処分者(乗換手続き等含む)等は誰か

が問われます。

④ 申告書の提出

 贈与の証拠を示すためにも、贈与税の申告を行っておくことが大切です。

【参考法令】

民法549条(贈与)

 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

民法550条(書面によらない贈与の撤回)

 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

相続税法第1条の4(贈与税の納税義務者)

 次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、贈与税を納める義務がある。

一 贈与により財産を取得した次に掲げる者であって、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの

二 <以下省略>

文責:

税理士 天池 健治

税理士 / 証券アナリスト / 宅建士 / 公認コンサルタント